第三次、とある戦場にて

第三次、とある戦場にて


──────戦場とは、即ち地獄である。

霧の如く漂う硝煙、血と炎に彩られた大地、爆音と喝采が協奏曲のように響き渡る。

その最前線、瓦礫の山となりつつある街中にて敗走し、地を駆ける影が一つ。そしてそれを追う影が二つ。

追跡する影の一つから電光が迸り、地を這うように一撃が襲い来る。それを追われる影は背中に目が着いているかのようにひらりと躱し、反転しながら停止した。

ボロボロの軍服に腰に推進機が装着された少女。

場違いと思うことなかれ、彼女こそこの戦場の局面を左右し得るカードの一つ、魔法少女たる存在の一人、ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン。

そして彼女を追う影もまた、同じ存在。

方や、ガスマスクで顔を覆い、左腕に電極じみた装置を装着した銀髪の少女。

そしてもう片方は、長大な馬上槍を携えた下半身が馬の魔法少女。

「……よってたかって、か弱い女の子を虐める気?」

劣勢に身を置きながらも不敵に笑うゴッド・セイヴ・ザ・クイーンに対し、瞬時にガスマスクの魔法少女は再度あの雷撃を繰り出そうと左腕を振り上げ─────。

「チェック」

クイーンが予め変化させ、辛うじて建っている建造物の屋上に潜ませていた騎士(ナイト)の駒の水兵、その重厚な錨に自慢の左腕諸共、上空から頭蓋を破砕、それに留まらず生命という支えを失った身体が崩折れる間も与えず原型すら分からなく成る程に無惨に破壊した。

「なんで今まで逃げてたと思う?ここまで追わせるため、私が勝てる盤面に君達を追い込ませるためよ」

つまるところ──────クイーンが負け、追われ、ここに追い詰められるまでの全てが彼女の掌の上。

そしてここが彼女が思い描いた最終盤面であることに気づいた馬上槍の魔法少女……ドラグーンは自身の覆しようもない不利を悟り、残された一手であるこの場からの逃走を図る。

「まあ有り体に言わせてもらえば」

だがもう遅い。

「詰み(チェックメイト)、って所ね」

次の瞬間、クイーンの鬼札たる駒、女王(クイーン)の水兵が遮蔽物から飛び出し、錫杖の一閃にてドラグーンの首を跳ね飛ばした。

二名の魔法少女を仕留めたクイーンに、息着く暇は許されない。むしろ、ここからが本番であった。

「……オイオイ、ドラグーンもブリッツシュラークも返り討ちかよォ。掠り傷一つも付けてねェのな」

悠々とクイーンの目の前に現れたのは、三人目の魔法少女。

小柄な体格に見合わない巨大な黒鉄のガントレットの片方には、クイーンが足止めとして放った城塞(ルーク)の水兵の頭が引っ提げられていた。

クイーンの魔法で変化させた水兵。歩兵(ポーン)であろうとも単独ならば魔法少女と同等の戦闘能力を誇るそれは、城塞(ルーク)クラスともなれば文字通り難攻不落の城と呼べる域である。

それを、クイーンの目の前にいる魔法少女は僅か数分で解体せしめたのだ。

その風体から、クイーンはその魔法少女の名と力を知っていた。

そして、眼の前の魔法少女も、同様に。

「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーンだろ?イギリスの」

「覚えてくださって光栄の至りですわ。ロシアの怪腕王女、メギンギョルズ」

クイーンがこの戦場における『群れ』の最高戦力であるならば、メギンギョルズは『単独』の最高戦力である。

彼女の能力は単純明快、『己の身体能力を5倍にする』。

そも、魔法少女の基本的な身体能力ですら戦車をも単独で破壊できる。

それが5倍ともなれば、文字通り桁が違う。

大隊規模の軍隊を一人で殲滅してしまえるほどに。

シンプル、故に最強。

だからこそお互いに直感する。

この戦闘が、この戦場そのものの結末を左右すると。

「まあやることは誰だろうと同じだ。全て真正面からぶち壊せば問題はねェ」

メギンギョルズが巨腕を叩きつけて嗤う。

「それが出来るなら、どうぞご自由に」

ゴッド・セイヴ・ザ・クイーンもそれに応えるように、残る9個の駒の水兵を総動員した。

「尤も貴女にそれが出来るなら、という話ですけれど」

「カ、カカカカカカッ‼言うねェ、今までのつまらねェチンケな奴らとは一味違うなァ‼嗚呼良いぜ、どちらが上か─────試してみるかッ‼」

ゴッド・セイヴ・ザ・クイーンの号令の元に水兵達が一斉に武器を展開し、メギンギョルズに襲いかかる。

メギンギョルズも血気に任せ、クイーンの軍隊に正面から弾丸の如く吶喊する。

そして、水兵の槍の鋒とメギンギョルズの鉄拳の先端が触れ合った刹那──────戦場に一際大きな、戦闘に彩られた粉塵の花が咲き誇った。

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